UIにおける心理学はウェブ制作に携わっている方は、肌感覚的になんとなくは理解はしているが論理的に説明できない、またはデザインを初めて間もない方は初見の方も当然いらっしゃると思います。もちろん、これは基本だよね!という方もいらっしゃると思います。
あらためて今回は、UXのデザインの法則11個のうちの1つ「ヤコブの法則」について記載していきたいと思います。
目次
ヤコブの法則
ポイント
- ユーザーは、慣れ親しんだプロダクトと同じように、見た目と動作が一致することを期待する
- ユーザーの既存の知識や経験を活用することで、ユーザーは新しい製品やサービスを使いこなすための学習を省き、タスクに集中できるようになる。
- リニューアルなどの変更による混乱を避けるために、従来バージョンの利用を継続できるように、移行期間を設ける。
ユーザーはこれまで見て来た、操作してきたUIの経験(慣れ)というのは、初めて訪れるサイトだとしても、少し触れただけでUIへの理解を深めてストレスなく目的を達成することができます。
これは、これまでの経験がそのまま活かされている状態であるため、心理的な負担が少なく、不要な認知負荷が無かった状態であったといえます。
デザイナーはのような心理的な負担を取り除き、ユーザーがすぐに目的を達成できるようにする必要がります。全ての心理的負担が悪いわけではなく、実際に必要な場合もある。しかし価値のないもしくは目的に沿わないなら、余計な負担を無くすべきである。
ヤコブの法則の起源
ヤコブの法則(ヤコブのインターネット・ユーザーエクスペリエンス法則)は、ユーザビリティの専門家ヤコブ・ニールセンによって2000年に提唱され、ユーザーは他のウェブサイトやプロダクトでの経験から、あるべき姿を期待する傾向があるという法則です
この法則に基づくと、新しいウェブサイトやプロダクトを設計する際は、既存の慣例に従ったデザインにすることで、ユーザーの混乱や失敗を防ぐことができます。
逆に、まだ慣例となっていないデザインは、ユーザーの期待を裏切り、使いづらさや離脱につながる可能性があります。
ユーザーは、以前の経験から、新しいウェブサイトやプロダクトの操作方法を予測します。この予測は、メンタルモデルと呼ばれる心理学の概念に基づいており、メンタルモデルは、ユーザー体験に関する最重要概念の1つであり、ユーザーの行動や心理を理解するために役立つことができます。
メンタルモデルとは
メンタルモデルとは、私たちがシステム等の動作を理解・予測するための知識のことで、ユーザー体験を向上させるために重要です。
ユーザーのメンタルモデルを理解する為には、ユーザーインタビューやペルソナなどの手法で導き出すことができます。
デザイナーは、ユーザーのメンタルモデルに沿ったデザインをすることで、より使いやすく、より効果的なユーザー体験を提供することができます。
メンタルモデルを利用した事例
Webサイトのフォームやスマートフォンなどのボタン等の要素は、本物の機械の操作パネルを真似て作られています。
トグルやラジオボタン、ボタンなどの形は、本物の操作パネルのボタンやスイッチに似ています。
これは、フォーム要素を使う時や、スマートフォンの設定を変更する時に、ユーザーがすぐにわかるようにするためです。本物の機械で見たことがある形のUIなら、ユーザーはどうやって使うかすぐに理解できます。
デザインがユーザーのメンタルモデルと合っていない場合、ユーザーはプロダクトやサービスを理解するのに時間がかかったり、操作に戸惑ったりする可能性があります。サイトのリニューアルやアプリのUIのリデザインによってユーザーのメンタルモデルと大きくかけ離れてしまいユーザーが離れてしまう事例を聞くことがあります。
リデザインをするときは、ユーザーに新しいバージョンを使うかどうか選ばせることが大切です。そうすれば、ユーザーは新しいデザインになじむことができます。
YouTubeは、新しいデザインを出したときに、ユーザーに旧バージョンに戻すこともできるようにしました。これで、ユーザーは新しいデザインに慣れたり、意見を送ったりすることができることによって、リデザインへの反応がよくなりました。
リデザインをするときは、ユーザーに新しいバージョンを使うかどうか選ばせることが大切です。そうすれば、ユーザーは新しいデザインになじむことができます。
この方法のメリットは以下の3点があります。
大幅なリデザイン時には、古いデザインも選択できる機能を持たせる
- 新しいデザインに慣れる時間ができる
- 新しいデザインが気に入らなくても、旧バージョンに戻せる
- リデザインを改善する意見が送れる
このようにリデザインをするときは、以上メリットを踏まえてリデザインを検討する必要があります。
ユーザーペルソナとは
ここまで何度か「ユーザー」と書いてきましたが、この場合のユーザーとは一体誰のことでしょうか?
この「ユーザー」が誰なのかをはっきりさせることが大切です。そうしないと、クライアント、代理店、デザイナーの想い描いているユーザーがバラバラになり、何故そのデザインが良いのか?何故そのデザインにするべきなのか?という判断基準がバラバラとなりデザインを決定することが難しくなります。
ユーザーペルソナは、ユーザーの一部を架空の人物として表したものです。ユーザーのデータに基づいて作り、設計やデザイン段階でユーザーの持つニーズに沿って制作するための重要なツールです。
このように、ユーザーペルソナは、ユーザーをよく理解して、デザインの方向性や判断を決める助けになるものです。
具体的には、ユーザーペルソナは、以下の情報を含んでいます。
- 基本情報
ペルソナの基本情報は、写真や名前などの項目で構成される。これらの項目は、対象のユーザーペルソナの属性グループの特徴をリアルに表すことが重要である。そのため、グループ内の共通点がデータに反映されるようにする必要がある。 - 詳細情報
ペルソナの人生や性格やプロダクトに対する考え方などが詳細情報になります。ユーザーペルソナに感じることや、デザインで大切なことがわかりやすくなります。ユーザーペルソナの目的ややる気ややりたいことなども考えることができます。 - インサイト
ユーザーの態度や行動に対する深い理解を示すものです。ユーザーリサーチから直接引用されることが多いため、ユーザーの生の声を反映しています。インサイトは、ユーザーの行動をより深く理解し、ユーザーにとってより良い体験を提供する上で役立ちます。
これらの情報をもとに、デザイナーはユーザーの行動や思考を推測し、ユーザーにとって使いやすいデザインを実現していかなければなりません。
よって、ユーザーペルソナは、デザインプロセスにおいて必要なツールであり、効果的なデザインをするためには、ユーザーペルソナをうまく作って使うことが大切です。
また、メンタルモデルを利用したデザインは、ウェブやアプリなどだけではありません。
様々なデザインで使われている法則です。
同質化とのバランス
ここまで読んだ方は、ある疑問が湧くと思います。
全てが同じデザインになってしまうと。
メンタルモデルの慣例に従って、慣れているUIにするとユーザーが使いやすく感じることが多いです。でも、それだけだと、他のウェブサイトやアプリと区別がつかなくなってしまうかもしれません。
同質化が進む理由にはいくつかあります。
開発速度を上げるためフレームワークを使う。デジタルプラットフォームに合わせる。単に創造性が足りなかったりするからです。
新しいやり方に挑戦すると、ユーザーが驚きや興味を持つことがあります。でも、それだけだと、ユーザーが使い方に戸惑ったり、理解できなかったりすることもあります。前述の通りユーザーは、今までの経験や知識に基づいて物事を理解しようとするからです。
では、慣例に従う方法と新しいやり方に挑戦する方法、どちらが正解なのでしょうか?
答えは、どちらでもありません。大事なのは、慣れているやり方も新しいやり方もバランスよく使うことです。そのためには、ユーザーのニーズや文脈をしっかり理解して、技術的な制約も考えて、最適な方法を選ぶ必要があります。そして、必要に応じてイノベーションを起こすことも忘れてはならない重要な要素になってきます。
まとめ
このように、ヤコブの法則というのは全て同じになるべきだと言っているわけではありません。ユーザーが新しいものを理解するためには、今までの経験を使うということをデザイナーが忘れないようにするための法則です。
まずは既存の慣例に従い、その後、ユーザーにとってメリットがある場合にのみ慣例から離れるようにしましょう。そのときは、ユーザーペルソナに近い身近な人で、そのUIやデザインが理解できるかどうかをテストする必要があります。上手くいかなかった時は、何故上手くいかないのかを検証しなければなりません。
デザイナーは、ユーザーの期待に沿ったデザインをすることが基本ですが、必要なときには新しいデザインに挑戦することも大事です。そうすれば、ユーザーはもっと楽しくプロダクトやサービスを使うことができます。